稱名寺とその周辺の植物(2)

稱名寺では年に2回(春と秋)に『稱名寺通信』として、寺報(お寺の広報紙)を発行しております。その中で、2014年の秋から稱名寺門徒の浅間恒雄さんに、「稱名寺とその周辺の植物」と題して、境内や山門前の春風公園にある植物の解説をご寄稿いただき、紹介いたしております。
今回の記事は、稱名寺通信第6号(2015年4月発行)からの転載です。

 

アメリカノウゼンカズラ(稱名寺境内)

アメリカノウゼンカズラ  稱名寺の御門を入り左手のイチョウの樹に絡みついた落葉性のつる植物で、境内のキササゲと同じノウゼンカズラ科の植物です。いずれも漏斗状の花をつけ、特にノウゼンカズラは真夏に赤い花を枝先に着けることで庭のある家では良く植栽されます。私の記憶では北陸地方の農家の庭先には必ずといっていいほど植栽されており、遠くからも目立つ花物です。
ノウゼンカズラ属の植物は北米産のこの種と中国産のノウゼンカズラの二種がありますが、中国産のものは九世紀にすでに渡来していたということです。アメリカノウゼンカズラは大正末年に移入されたらしく新しい栽培植物です。ノウゼンカズラは漢方の利尿剤などに利用され、花の匂いを嗅いだり、花の露が目に入ると目がくらくなるなどの障害があるとの記述もあります。最もアメリカノウゼンカズラの方はアメリカのメリーランド州の州花に指定されていることなどから、重篤な障害はあまりないのかもしれません。でも取扱いには気をつけておいて下さい。

アメリカノウゼンカズラ

カラタネオガタマ(春風公園)

カラタネオガタマ

カラタネオガタマ(唐種招霊)は中国原産で江戸時代中期に渡来し、庭や神社に植えられたモクレン科の常緑低木です。高木となる在来のオガタマノキと同様に、花にバナナのような強烈な芳香があるのが特徴です。花期の五月の中下旬にはその香りが春風公園の周遊路の周りに強く漂っています。
オガタマノキの和名の由来は招霊(おきたま)の転化したもので、この樹の枝を神前にそなえて神霊を招禱(おき)たてまつるからオガタマという由来です。また、オガタマは小香実で香りのある実をつけるからという説もあります。このような神道の利用のされ方から、本来のサカキはこの樹であるとの説もあります。(新訂牧野新日本植物圖鑑、2000、北隆館)
この説が正しいとすると、榊に利用される植物はツバキ科のサカキとヒサカキが今では定番ですが、シキミ、ヤブニッケイ、タブノキ、シロダモも利用されさらに、松の若木も利用されたらしいです。

カラタネオガタマ

稱名寺とその周辺の植物

稱名寺では年に2回(春と秋)に『稱名寺通信』として、寺報(お寺の広報紙)を発行しております。その中で、2014年の秋から稱名寺門徒の浅間恒雄さんに、「稱名寺とその周辺の植物」と題して、境内や山門前の春風公園にある植物の解説をご寄稿いただき、紹介いたしております。今後はこのブログでも同じ内容の記事を掲載していきますので、是非ご覧下さい。
今回の記事は、稱名寺通信第5号(2014年10月発行)からの転載です。

 

 

クスノキ(稱名寺境内)

クスノキ

クスノキ科の常緑広葉樹で、ナンジャモンジャの別名があります。葉は三行脈が目立ち二本の側脈の分岐にダニ袋ができるのが特徴です。主に関東以南の暖地に生育し(史前帰化?)、台湾、中国南部、インドネシアに自生しています。葉を揉むと芳香があるのは、植物体に防虫効果のある樟脳が含まれるためで、建材に利用され、時に仏像や木魚の材料となることから寺院との関わりの深い樹木です。稱名寺の二本は隣接するイチョウとともに川崎市の保存樹木に指定されています。

 ヤマボウシ(春風公園)ヤマボウシ

ミズキ科の落葉広葉樹の中高木です。北海道と沖縄県を除く日本の全土に自生していますが、北大植物園には植栽された本種が大型で綺麗な花を咲かせます。春風公園の芝生広場に単立木が植栽されているほかに、稱名寺にもあります。名前の由来は山法師という漢字表記にみられるように、丸い花の集まりを法師の頭に、白い総苞片を頭巾に見立てたものとする説が有力です。神奈川県では箱根周辺が有名ですが、ほかに雲仙、済州島に多産するそうです。また、富山県高岡市の旧福岡町にもロッジヤマボウシという公共の宿があり、この花の名前を頂く宿は日本全国に存在するようです。ちなみにアメリカヤマボウシはハナミズキの別名で、植物分類上ではきわめて近い種類になりますが、総苞の先が窪んでいることや、開花が葉の展開より早いので、容易に区別することができます。
※ダニ袋とは主脈と側脈の付け根にできる小孔でその中に虫が入り多少膨らむ。
※史前帰化とは歴史のある以前に有用植物として移入された植物。ヒガンバナなどもこれに当たると考えられ、飢饉のときに根を晒して食用にしたと伝えられている。