稱名寺とその周辺の植物(9)

稱名寺では年に2回(春と秋)に『稱名寺通信』として、寺報(お寺の広報紙)を発行しております。その中で、2014年の秋から稱名寺門徒の浅間恒雄さんに、「稱名寺とその周辺の植物」と題して、境内や山門前の春風公園にある植物の解説をご寄稿いただき、紹介いたしております。
今回の記事は、稱名寺通信第13号(2018年10月発行)からの転載です。

 

 

稱名寺とその周辺の植物(9)

カクレミノ(稱名寺境内)

稱名寺では鐘楼の傍に一株が植わっています。カクレミノは常緑の広葉樹で高さ数メートルになる小高木です。自然の分布は関東地方南部以西の本州、四国、九州、琉球に分布し、暖地にふつうに生えています。また庭樹としても植えられることも多く、植栽分布はさらに北上しているようです。名前の由来は写真のように若い葉が2・3裂し、隠れ蓑の形に似ていることによります。花は小さい緑色の花火のような散形花序をつけ、黒色の小さい実を多く着けますが、同じ仲間のヤツデほど実の数は多くはありません。このカクレミノは常緑でありながら、ほぼ一年で葉を更新するという珍しい樹木であるとのことです。近縁のチョウセンカクレミノからは黄漆がとれ、日本産のものからも同様な樹脂がとれるらしいです。原稿を書いていて、昔話を思い出し、ネットで探してみましたら「天狗の隠れ蓑」というものが紹介されていました。確か、昔読み聞かせされた記憶があります。年配の方はご記憶にある方も多いと思いますが、今時の子供たちは知っているかな。

 

マルバハッカ(春風公園)

春風公園の南東部のフェンス際に帰化している多年草。ヨーロッパ原産で香辛用に栽培されたものが広がったものと考えられます。全草にメンソール臭があり、手で葉っぱをとり、揉むと一面に匂いが漂います。走出枝を伸ばして繁茂するので、一枚目の写真のように大きな塊となって生育していることが多いようです。葉は無柄で対生し、広楕円形で表面に皺が多く毛を密生しているのが特徴です。花期は夏で、次の写真のように白か淡紅色の唇形の花を穂状につけます。英名はアップルミントと呼ばれ、ハーブティや入浴剤などに利用されています。ハッカ属の植物はこのアップルミントに限らず、薬効が多く知られています。例えば、全草に含まれる精油(植物の芳香性を持った揮発性油)を含んでおり、メンソール、酢酸などの化合物を精製することができ、頭痛、筋肉痛、咽喉の痛み、暑気あたりのめまい、発熱、口渇などに処方されます。私は作ったことはありませんが、ハーブティに入れる場合は乾燥させたりせずに生のままで利用することがお薦めだそうです。
また、数年前から蚊などの忌避剤として効用も注目されはじめ、ハッカ油スプレーのつくり方がネットで紹介されるようになり、用途も多様化しているようです。

※引用・参考文献
新訂牧野新日本植物圖鑑、牧野富太郎、2000、北隆館
世界有用植物事典、1989、平凡社
日本帰化植物写真図鑑、清水矩宏、森田弘彦、廣田伸七編著、2001、全国農村教育協会
神奈川県植物誌2001、神奈川県植物誌調査会編、2001、神奈川県立生命の星・地球博物館