稱名寺とその周辺の植物(7)

稱名寺では年に2回(春と秋)に『稱名寺通信』として、寺報(お寺の広報紙)を発行しております。その中で、2014年の秋から稱名寺門徒の浅間恒雄さんに、「稱名寺とその周辺の植物」と題して、境内や山門前の春風公園にある植物の解説をご寄稿いただき、紹介いたしております。
今回の記事は、稱名寺通信第11号(2017年10月発行)からの転載です。

 

ビワ(稱名寺境内)

ビワは九州、四国の石灰岩地帯では野生があるとされており、多くは果樹として広く栽培され太平洋岸では千葉、日本海側では富山より南側の地で生育しているバラ科の常緑樹です。葉の表面ははじめ毛がありますが後に無毛となり光沢があります。葉脈は窪んでおり、対照的に葉裏には淡褐色のラシャ状の毛を密生しているのが特徴です。

大塚敬節(1975)が書いたビワの薬効の強さを現す話が古い新聞記事に掲載されていましたので、その骨子を紹介します。

大正から昭和にかけてある高名な僧侶が枇杷の葉で難病痼疾を治すことで有名であったという。あるとき腹水がたまった難治の患者を治療してもらったとき、枇杷の葉の光る側に墨でお経を書いて、火鉢でその葉を温めながら、五分程度その患者の腹をさすったところ、一時間もたたないうちに腹水は尿として排出されて、腹はぺしゃんこになったとのことであった。

また、明治時代には、夏負け予防に飲む枇杷葉湯というものがあり、この枇杷葉湯は枇杷の葉をいちばん多くいれ、陳皮(みかんの皮)、ホオノキの皮、甘草などを入れて煎じて飲む。枇杷の葉を10グラムほど一日量としてお茶替わりに煎じて飲むと咳に聞く、また胃をじょうぶにする効果もあった。さらに、葉を神経痛などで痛むところにあてていると痛みが軽くなどの薬効があるという。昔は癌などの終末医療で麻酔を使うことがなく、枇杷の葉を温めて痛むところにあてていると痛みが軽快するということであったらしい。

私も稱名寺の檀家になるかならないころ、見知らぬ人に境内のビワの葉を分けてもらえないかとせがまれて、困惑したことを思い出しました。その人もビワ茶をつくるとかいっておりましたが、その場では即答はできず、お寺のご住職に聞いてくださいと答えておきましたが、その後どうなったか?勝手にとって行ったのかもしれません。それでも、枇杷は稱名寺の塀の外へも青々と葉を繁茂させておりますので、それほど影響はなかったように思えます。

アシタバ(春風公園)

関東南部から紀伊半島に至る海岸付近に分布し、伊豆諸島にも生育するセリ科の大型の多年草です。名前は明日葉で、葉を摘んでもその翌日には新しい葉が生えてくることから、繁殖力の旺盛さを現すものです。

時たま栽培されているものが逸出して生育していることがあり、春風公園の個体もどこかの圃場に生えていたものが、樹木の移植に伴い、持ち込まれたものと考えられます。

私が神津島で空港建設の環境調査を実施していたころ、宿で亀の手とこのアシタバの若葉を入れたお吸い物を出してくれ、とても美味であったことを今でも覚えております。アシタバの葉は独特の香りがあり、初めて食べた人には好き嫌いが分かれるかもしれませんが、私は普通の香味野菜として十分楽しめる食材ではないかと思います。若葉はすこし苦みがありますが、セロリと同じように食することができます。

最近の話題では伊豆大島で、動物園から逃げ出して野生化したキョンの大繁殖に伴い、アシタバ畑での食害が大問題となっている報道がありました。因みに同じ動物園から逃げ出して繁殖したタイワンリスはツバキ油の栽培収穫にも大打撃を与えているようです。外来種を移入するときは、その種類が野生化した場合の危険性を前もって予測して十分注意する必要があるようです。

 

※引用・参考文献
新訂牧野新日本植物圖鑑、牧野富太郎、2000、北隆館
本草新話 ビワの葉①②、大塚敬節、1975、読売新聞
世界有用植物事典、1989、平凡社