稱名寺では年に2回(春と秋)に『稱名寺通信』として、寺報(お寺の広報紙)を発行しております。その中で、2014年の秋から稱名寺門徒の浅間恒雄さんに、「稱名寺とその周辺の植物」と題して、境内や山門前の春風公園にある植物の解説をご寄稿いただき、紹介いたしております。
今回の記事は、稱名寺通信第8号(2016年4月発行)からの転載です。
オオアラセイトウ(稱名寺境内)
「オオアラセイトウ」 中国原産で花卉として導入され、日本の各地で逸出・野生化している越年生草本です。道端や土手、のり面などに人為的に播種されることもあります。紫の花を一面に咲かせる光景は圧巻です。
稱名寺では南東部の境界付近の草むらにわずかに生育しています。全体に無毛で、茎は上部で分枝し、高さ60㎝ほどになります。葉は上部のものは長楕円形ですが、茎の下部のものと根生葉は羽状に唇裂します。
春に枝の先端に直径3㎝ほどの紫色の4弁花を総状につけます。果実は10㎝に達する長角果をつけ、熟すと四つに避けて黒い種を自然に弾き飛ばします。江戸時代に移入されましたが、第二次大戦前に中国から持ち込んで再び広められたことで一般に知られるようになりました。
別名、ショカツサイ、ハナダイコンなど多様な名前で呼ばれています。中国名のショカツサイ(諸葛采) は諸葛孔明が栽培を薦めたとの伝説からきたものとされ、若芽は煮てから水にさらし、にがみを取ってから食用にされる。また、種子から食用油がとれるそうです。ただし、諸葛采は蕪を指すという説もあり、その真偽は確認することはできませんでした。
フユザクラ? 十月桜? (春風公園)
「フユザクラ? 十月桜?」 フユザクラは「小葉桜」とも呼ばれ江戸時代後期から栽培されてきた桜です。オオシマザクラとマメザクラの雑種とされ、伊豆や房総に自然分布もあります。花は3~4㎝で大輪、白から淡紅色と文献では記述されています。ところが、春風公園のフユザクラとされる木は花も小さくやや赤みが強く八重であることなどから、この植物名札(Prnus × parvifolia)に当たらない種類であると考えられます。
周辺の桜ではソメイヨシノが下平間小学校との境界部に植栽されています。これはエドヒガンとオオシマザクラとの雑種で、これほどの華やかさはないですが、このフユザクラとされる桜は十月ごろから春先にかけて長い間花を楽しめる桜です。
文献を当たると春風公園のフユザクラとされるものは、どうやらマメザクラとエドヒガンとの雑種の十月桜が正しいようです。その理由の詳細を示すと花が小さく八重であること、花の色が淡紅色であること、つぼみの先にめしべが出ること(雌蕊が長い)、さらに萼や小梗に毛があること(フユザクラは無毛)などが特徴です。葉の形もマメザクラの欠刻鋸鹵があり側脈の数も多い(エドヒガンの特徴)ことからもオオシマザクラよりはエドヒガンの血が混ざっていることが伺えます。
その真偽はともかく、木の花の美しさをご堪能ください。
※参考文献
新訂牧野新日本植物圖鑑、2000、北隆館
世界有用植物事典、1989、平凡社 日本の桜、2001、㈱学習研究社