稱名寺では年に2回(春と秋)に『稱名寺通信』として、寺報(お寺の広報紙)を発行しております。その中で、2014年の秋から稱名寺門徒の浅間恒雄さんに、「稱名寺とその周辺の植物」と題して、境内や山門前の春風公園にある植物の解説をご寄稿いただき、紹介いたしております。
今回の記事は、稱名寺通信第12号(2018年4月発行)からの転載です。
稱名寺とその周辺の植物(8)
ザクロ(稱名寺境内)
稱名寺では鐘楼の傍に一株が植わっています。柘榴は観賞用、食用、薬用に栽培される落葉樹(湿潤熱帯では常緑)で6~7月に朱紅色の花をつけ、9~10月に結実します。稱名寺のものは立派な実をつけておりました。地中海東岸から北西インドに至る地域に分布し、南西アジア地域で最も古くから栽培された果実の一つです。ギリシャ、中国に早くから伝わり、日本には平安時代以前に伝わったとされています。日本に栽培されるザクロは花を観賞するためのハナザクロが主体で、八重咲品や、白花、黄花、紅花、紅白のしぼりなどの品種があります。一方のミザクロは中国、アメリカ南東部、インドなどで栽培され、50品種程度があるといいます。果実は多数で、淡紅色の透明な膜で覆われ、かむと甘酸っぱい果汁がこぼれ出ます。果皮にはアルカロイドを含有し、駆虫薬や下痢止めに利用されたそうです。
また、ザクロは実の数が多いことから、子宝に恵まれ、家が繁栄するという縁起の良い木とされ、鬼子母神とのかかわりが深く、とくに日蓮宗の寺では、ザクロの絵馬を奉納して祈願するということです。その反面では、花や実が赤いことから、仏壇に供えることを嫌われ、庭に植えると病人が絶えないという言い伝えがある地方もあり、正反対の評価がされていることも興味深いことです。
日本では果物としての営農栽培をすることはなくなりつつあり、店頭に並ぶものは輸入ものがほとんどです。
メグスリノキ(春風公園)
春風公園に一株だけ植栽されているカエデです。日本固有種で本州、四国、九州に生育し、高さは10mほどに生長する落葉喬木です。雌雄異株で、葉は三出複葉となる対生です。葉の縁は不規則な低い波形の鋸歯があり、表面にはほとんど毛はありませんが、裏面、特に葉脈には長い褐色の毛を密生しています。三つ葉のカエデは他にミツデカエデがありますが、葉の大きさは小ぶりで、毛の量も少ないので簡単に見分けることができます。
樹皮や葉の煎汁を目の洗浄に使用したことでメグスリノキの和名があります。これは樹皮にロドデンドロールなど多くの有効成分が含まれており、眼病の予防・視神経活性化・肝機能の改善などの効果があることが星薬科大学の研究により実証されています。近年、メグスリノキの効用を評価されたことで、栃木県内の道の駅などに売られることもよく見かけるようになり、商品価値が見いだされたことで、山林などでの過剰な伐採も問題となっています。
別名に長者の木という名前があり、その語源は不明ということですが、材が強靭で建材や床柱に利用されたことに、由来するのかもしれません。
※引用・参考文献
新訂牧野新日本植物圖鑑、牧野富太郎、2000、北隆館
世界有用植物事典、1989、平凡社