2021年6月28日(火)
6月の同朋の会を開きました。今回も午後2時から、時間を短縮し3時半までとしました。諸々感染症予防対策を行い、参加される方にもマスク着用をお願いしております。
次回は7月28日(水)午後2時よりを予定しています。現在同朋の会は、人数把握のため、いつもお越しの方にのみのご案内とさせていただいております。参加をご希望の方は事前にお問合せ下さい。
2021年6月28日(火)
6月の同朋の会を開きました。今回も午後2時から、時間を短縮し3時半までとしました。諸々感染症予防対策を行い、参加される方にもマスク着用をお願いしております。
次回は7月28日(水)午後2時よりを予定しています。現在同朋の会は、人数把握のため、いつもお越しの方にのみのご案内とさせていただいております。参加をご希望の方は事前にお問合せ下さい。
稱名寺では年に2回(春と秋)に『稱名寺通信』として、寺報(お寺の広報紙)を発行しております。その中で、2014年の秋から稱名寺門徒の浅間恒雄さんに、「稱名寺とその周辺の植物」と題して、境内や山門前の春風公園にある植物の解説をご寄稿いただき、紹介いたしております。
今回の記事は、稱名寺通信第17号(2020年10月発行)からの転載です。
稱名寺とその周辺の植物(12)
今回は、新潟の県の木であるユキツバキと合わせて稱名寺にも植栽されているツバキについて解説したいと思います。
日本に生育する椿はヤブツバキという種類で幹はほぼ直立し四~五メートルの中高木ですが、南方では十五メイトルの喬木に達するものもあります。ヤブツバキにはユキツバキとリンゴツバキの二変種がありますが、栽培品種としては明治初期までに千三百品種程を数え、欧米でも改良されて一万品種はあるとされています。
椿の語源では七説ほどありますが、中村(1998)は主なもの三説を紹介しています。ひとつは「艶葉木」の葉がつやつやした木から転訛したとする説と、葉が厚いことで「厚葉木」から転訛したという説、さらに持論として、落ちた花の中が空洞となった姿が刀の鍔(つば)に似ており、椿を模した鍔を平安時代の古刀によく見かけることから、これが語源ではないかとの推論をたてています。ところが、日本国語大辞典によれば古語の「ツバ」が光沢のある様を表すとしており、植物の茅(チガヤ)をさす地方もあり、その花穂の銀色に輝くさまを表したものと推測できます。また、ツワブキのツワも同じであるとのことで葉の光る蕗(ふき)の意味です。さらに、ツワモノ(強者)のツワは武具のことで、光り輝く武具を着たものであったのではと考えることもできます。これらのことから、椿の語源はツバ木で光沢(ツヤ)のある木とする説が最もわかりやすいと私は考えています。
椿の実からとる油は、食用油、髪を光らせる整髪料などに利用され、木は硬くて木地として器に使用したほか、これらの有用性から椿自体が神聖な木として、榊や呪術に使う槌に使用されたことが知られております。面白いことに日本放送協会が作製したドキュメンタリーで紹介されていたのですが、麹菌を育てるには、椿の木の灰が一番良いとされ、種麹を作るときには、必要不可欠なものであったとすることでした。味噌、醤油、お酒の醸造にも係わっており、古代人の食生活にも重要な役割を果たしてきたと推測されます。さらに、その灰を土にまくと虫よけになるとか、布に当時としては貴重な紫を染めるときの補助剤として入れるなど興味深い記述を見ることもできます。(上原敬二、1969) このように有用な椿が神聖な木とされる理由も納得の行くことです。
ヤブツバキは人間生活と係わりの深い植物ですから、人為的に分布を広められてきた植物でもあります。現在の分布の北限は青森県の夏泊半島の北端にある椿山(天然記念物)で、伊豆の韮山から種を持ち帰り植えたという伝説さえあり、本来の自然分布はかなり南の地方だったと考えられます。椿を挿し木や実生から育てて海岸沿いを北上したという故事はいたるところで伝承や古文書などで伝えられているようです。
次に、京都(北部)、北陸三県から新潟県さらに秋田県までの多雪地を中心に分布する日本海要素の植物の一つで、日本固有変種(固有種とする説もある)のユキツバキについて触れたいと思います。
日本海要素の植物は厳密にいうと、氷河期の遺存種の北方系由来の植物と暖温帯から多雪地に進出した南方系由来の植物で構成されます。ユキツバキは常緑低木匍匐型の植物で、南方系由来の植物に含まれます。これらの種分化の元となった常緑樹は多雪地の環境に適応して分布を広げた植物群で、雪圧への耐性のために稔性を持って根曲がりするものや、雪に覆われるために暖地から進出してきたもの、さらに土壌の水分も豊かであることなどの条件も相まって葉が大きく変化したものなどが、この地域の植物相を形作ってきました。
したがって、南方系由来の日本海要素の植物には種分化のもととなった暖地性の植物があります。ユキツバキとヤブツバキのほかにも、ヒメアオキとアオキ、ヒメモチとモチノキ、ハイイヌツゲとイヌツゲ、ソガイコマユミとコマユミ、チャボガヤとカヤ、ハイイヌガヤとイヌガヤ、ツルシキミとミヤマシキミなど枚挙にいとまがありません。
南方由来の日本海要素の植物を代表するユキツバキはせいぜい高さ二メートル程度の低木ですが、幹は根曲がり状態で、長さでいえば四、五メートルに及ぶものもあるかもしれません。これらの根曲がりの木々は雪解けとともに、残雪をも跳ねのけて春に向かって生長を開始します。時としてこの姿が雪国に生活する人々の忍耐力や粘り強さに喩えられる所以です。
また、ヤブツバキとユキツバキには花の形態においても明らかな違いがみられます。写真一のヤブツバキの花糸(葯のつく柄の部分)は白色あるいは赤白色で、その下部の相当部分が合着していますが、写真二のユキツバキは黄色で合着部分は短いことが特徴です。このほかにユキツバキの葉の光沢が強い点や若枝や葉柄に微毛があることなどが区別点です。
ただ、この二変種の間には写真三にみられるような中間的な個体も多く、ユキバタツバキと名付けられています。花糸が黄色で中間まで合着している個体群です。
石沢(1998)は新津丘陵の椿はこの中間的な性質をもつものが多いことを指摘しています。
現在も降雪量の多さによって進む種分化を示すツバキの仲間ですが、地球全体ですすむ温暖化による影響が心配されます。
冬の積雪量の低下が常態化すれば、多雪地に適応して種分化を進めてきた日本海要素の植物群の分布にも影響を及ぼすことが懸念されます。このことは、日本における生物多様性が失われることを意味し、延いては世界全体の生物多様性を失わせることとなりかねません。近年に多発する気象災害もしかり、すでに抜本的な対策を人類全体で進めていかなければならない時代になったと考えられます。